こんにちは、院長の三橋です。
唐突ですが、育児って大変ですよね。
特に「抱っこ」という作業は、お母さんの体を肉体的にも精神的にも疲弊させてしまうものです。
泣く子をあやす時なんかは、まさにそう。
こちらが少しでも楽しようものなら、それこそぜんぜん泣き止んでくれません。
そんなときは座り抱っこなんて、もってのほか。
抱っこするにあたって、歩いたり、揺らしたり、お母さんが「動いていないと」赤ちゃんは満足してくれないものです。
いったい何故なのでしょう?
そもそも人間であっても本能に支配されているもの
人間ほど、高い知能を獲得して、文明的な生活を送っている存在であっても、結局は「本能によって支配され生きている」という点では他の動物たちと何ら変わらないものです。
それは人間といえども所詮は、食欲、睡眠欲、性欲という、いわゆる三大欲求に支配されていることからも容易に理解できるかと思います。
また、それは新生児であれば、なおさら本能の占める部分は大きくなるもの。
当たり前ですが、新生児は誰に教わる訳でもなく、基本的な欲求を「泣くこと」で満たそうとするからです。
つまり、「泣くこと」がお母さんとの意思疎通の重要なチャンネルである訳です。
だから、新生児のうちは、眠くなったり、お腹が空いたりと、オムツが汚れたりと、わりと単純な欲求において泣くことが多いはず。
赤ちゃんが精神的安定を求めて泣くとき
月齢があがってくると、赤ちゃんの欲求も複雑になってきます。
空腹や睡眠といった基本的な欲求だけでなく、時には精神的安定を求めて泣くことも。
「何をしても泣き止まない」という状況です。
そんなときこそ、本能に従ってみるのです。
みなさん、経験則から学んでいるかと思います。抱っこしながら歩くと何故だか泣き止むことを。
しかし、ただ抱っこするだけでは駄目で、コツが要りますよね。
そう、それは密着させることと、適度に揺らすこと。
「輸送反応」という哺乳類の生存戦略について
「何をしても泣き止まない」状況から赤ちゃんを落ち着かせるには、密着させ、揺らしながら、歩くことがコツとなります。
これは、多くのお母さんたちが経験則から学ぶことでもあります。
実は、これは哺乳類が本来持っている本能を利用しているのですね。
太古の昔から、現代に生きる我々人類にまで受け継がれている、哺乳類としての本能だったのです。
はるか昔、他の動物に比べ、特に未熟な状態で生まれてくる哺乳類の赤ちゃんは、多くの肉食獣の標的になりやすい存在でした。
だから生き残るためには、常に安全な場所をもとめて我が子を抱えながら移動しなくてはならなかったのです。
また、抱っこされる赤ちゃんの側にも協力するように本能が備わっているのです。
つまり、抱っこされて移動する(歩く)と、おとなしくなるように本能がそうさせるのです。
これを「輸送反応」というのだそう。
2013年に理化学研究所が、その仕組みを論文として発表しています。
共同研究グループは、まず生後6カ月以内のヒトの赤ちゃんとその母親12組の協力を得て、母親に赤ちゃんを腕に抱いた状態で約30秒ごとに「座る・立って歩く」という動作を繰り返してもらいました。その結果、母親が歩いている時は、座っている時に比べて赤ちゃんの泣く量が約10分の1に、自発的な動きが約5分の1に、心拍数が歩き始めて約3秒程度で顕著に低下することを見いだし、赤ちゃんがリラックスすることを科学的に証明しました。次に、母マウスが仔マウスを運ぶ動作を真似て、離乳前の仔マウスの首の後ろの皮膚をつまみあげると、ヒトの場合と同様に泣き止み、リラックスして自発的な動きと心拍数が低下し、体を丸めました。さらに、体を丸めて運ばれやすい姿勢をとるには運動や姿勢の制御を司る小脳皮質 が必要なこと、おとなしくなる反応には首の後ろの皮膚の触覚と、体が持ち上げられ運ばれているという感覚の両方が重要であることが分かりました。また、この仔マウスの「輸送反応」を阻害したところ、母親が仔マウスを運ぶのにかかる時間が増加することも分かりました。
今回の成果から、哺乳類の赤ちゃんはおとなしくなる「輸送反応」によって自分を運んでくれる親の子育てに協力しているといえます。
出典:
育児は体力勝負だから、なおさら「産後ケア」は重要
輸送反応という本能をうまく利用すると、「何をしても泣き止まない」状態の赤ちゃんを落ち着かせることが出来ます。
これは赤ちゃんにとって、お母さんに歩きながら抱っこされているという状況がいちばん安全だから、リラックスしてしまえるということを意味しています。
そして、それは人類が太古の昔から生存戦略の結果、獲得した本能であるからです。
しかしながら、抱っこして揺らしながら歩くという行動は、お母さんの身体にとてつもない物理的負担を強いるものです。
そう、まさに育児は体力勝負。
そう考えると、なおさら正しい産後ケアで、抱っこに負けない体幹バランスを成立させるべきであるのです。
それと、余談ですが「疲れないおんぶ」の仕方も、よかったら参考にされて下さい。
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