こんにちは、院長の三橋です。
出産後、おそらく多くの方が悩まれることになる「お尻の形の変化」。
ヒップラインの変化はもとより、実際パンツが脚の付け根あたりで引っかかって入らなくなることも珍しくありません。
一般的に出産すると「お尻が横に広がり、平面的になってしまう」ものなのです。
このような状況を巷では、いわゆる「骨盤が開いた」と表現するのでしょうか。
また、当院でも便宜的にそう表現することもあります。
しかし、本当に骨盤が開いてしまうから、「お尻の形の変化」が起きるのでしょうか?
そもそも骨盤のもつ役割とは
人類が二足で立ち上がった時から、人間の骨盤は「臓器を収める容器」としてだけでなく、「上半身の重さを受け止め支える」役割をも負うようになりました。
つまり、人間の骨盤は、上半身の重さとバランスを一手に引き受けるだけの「強靭さ」と「安定性」を求められたという訳です。
また、骨盤のなかには実際、左右一対で存在する仙腸関節と恥骨結合と合計3カ所の関節部分が存在します。
しかし、仙腸関節は、仙骨が上半身の重さを一手に引き受けている以上、そうやたらと動ける関節ではないのです。
動けたとしても、ほんの数ミリ程度。
他の関節を補助するくらいの働きしか持ち合わせていないのです。
もし、骨盤が仙腸関節の部分で簡単に閉じたり、開いたりできる構造をとっていたとしたら、歩くことはおろか立つことすらもままならなくなるはず。
また、恥骨結合は関節とは名ばかりで、こちらは、ほとんど動くことはありません。
出産の瞬間だけホルモンの影響で数センチほど伸びるだけで、出産後は再び動かなくなってしまいます。
通常、骨盤は左右の仙腸関節と恥骨結合によって、強固に「三点結合」されているのです。
それと余談なのですが、出産後一か月以上経過してなお、体のふらつきや不安定感を感じてらっしゃるような方がいらっしゃいましたら、それは必ずしもホルモンによる骨盤の不安定さに原因のすべてがある訳ではないかも知れません。
妊娠出産の過程で生じてしまう「重心の揺り戻し」という現象によって、全身の筋肉が機能低下を起こしてしまっている可能性も考えられるのです。
骨盤はそう簡単に開かないもの
つまり、結論から申し上げると骨盤は開かないのです。
「三点結合」している以上は、解剖学的に骨盤は開きようがありません。
出産時に結合部分の靭帯という組織が「伸びる」ことはあっても、それはあくまで一時的な現象。
出産後、再びご自分の足で歩けるように回復された頃には、そう「伸びる」状態ではなくなっているのです。
もし、仮に骨盤が目でわかるレベルで簡単に開くような不安定な構造をとっていたら、おそらく安定した二足歩行は望めないでしょう。
出産後にお尻が大きくなってしまう本当の原因とは
それでは、出産後に「お尻が大きくなってしまう」本当の原因とはいったい何なのでしょう?
それは一言でいうと「股関節内旋」、つまりは内股(うちまた)になってしまったから。
内股になってしまうと大腿骨(太ももの骨)付け根の大転子とよばれる部分が、外側にせり出してしまうのです。
そして、大転子の位置までがお尻のシルエットとなるので、お尻が横に広がり大きく見えてしまう訳なのですね。
また実際、大転子のせり出した部分でパンツが引っかかってしまうという訳。
(※この状況を当院で、あくまで便宜的に「骨盤が開いた」と表現することがありますが、それは一般の方にわかり易く伝えるためであります。)
だから厳密に言うと、「骨盤が開いた」のではなく、「股関節が開いた」と表現した方が正確なのかも知れません。
もちろん内股を解除してあげれば、わりと早い段階でお尻を小さくする、すなわちパンツをワンサイズ下げることも可能です。
実際、当院のクライアントさんたちは、数回の施術でパンツがゆるくなってしまう方が多いようです。
そして、根本的にお尻を小さく戻す、つまり内股を改善するには、お尻の筋力アップも必要となってきます。
お尻の筋肉の筋力不足ゆえ、股関節を正しく支えきれない状況を作っている訳なのですから。
なので、骨盤ベルトでお尻をいくら強く締め上げたとしても、実は残念ながら骨盤は締まらないのです。
実際に骨盤ベルトを締めなくても、自然にお尻が小さく戻ってしまう方々の存在がこの事実を証明しているわけなのです。
本当の意味での産後ケア、および産後の骨盤矯正とは
以上を理解して頂ければ、「ただ開いた骨盤を締めるだけ」の産後の骨盤矯正がいかに荒唐無稽なものであるかがお分り頂けるものかと思います。
仕掛けつきのベッドや器具を用いて、仮に「物理的に骨盤を動かせた」としても、それは、おそらく一時的な効果に留まるだけで、30分もしたら元に戻るだけでしょう。
もちろん産後に抱えてしまった腰痛などといった症状の本質的な解決になろうはずもありません。
「骨盤が整った」のにも関わらず、相変わらず症状が改善しないなどといった話をよくお聞きするのは、おそらくこういった理由であるものと考えられる訳なのです。
もし、出産されてお尻が大きくなってしまったことに悩まれているのであれば、筋肉にアプローチすることで骨格を動かしていかなければ本当の解決には至りません。
それは言い換えると、妊娠出産によって知らないうちに変わってしまった姿勢であり、歩き方といった生活習慣から変えていかなければ何ら根本的な解決には結びつかないということ。
つまりは、「筋肉のつき方」自体を変えてあげなければならないのです。
本質的な産後ケア、産後の骨盤矯正を見据えてみると
出産されても、あまり「骨盤が開いてしまった」という実感を自覚されない方も多いです。
それは、おそらく妊娠される前から、股関節内旋つまりは内股の傾向が強い方だったからなのでしょう。
また、通常分娩でなく、帝王切開での出産でもお尻の形が変わってしまう事実が、「出産で骨盤が開いてしまう」といった都市伝説の反証にもなる訳です。
妊娠出産によって、おもに骨盤を支える筋肉に大きな変化が生じます。
数カ月にわたって大きなお腹を抱え、ホルモンバランスも変わってしまった結果、ダメージであり機能不全といったことが女性の身体にはついてまわるのです。
妊娠中の女性の身体には、いったい何が起きているのか?
骨盤の開閉といった観念的なことに囚われすぎることなく、もっと解剖学的見地にもとづいて産前産後の女性の身体にアプローチしていくべきなのではと。
それこそが本質的な産後ケアであると当院は考えるのです。
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